小麦粉の袋を開けたら、白い粉の中で何かが動いていた。
そんな経験をすると、台所に並んでいる調味料が急に気になり始めます。
調べてみると「密閉すれば大丈夫」「冷蔵庫に入れろ」「いや冷蔵庫は避けろ」と、書いてあることがばらばらです。
しかも読者が本当に知りたいのは調味料全般の話ではなく、砂糖はどうなのか、塩はどうなのかという食材ごとの答えのほうです。
この記事の信頼性:農研機構食品研究部門の主席研究員がFNNの取材に答えた内容と、千葉市保健所・さいたま市が公表している情報をもとにまとめています。
出典はすべて記事末尾に記載しました。
まずは、そもそもなぜ容器の中に虫が入ってくるのかから見ていきましょう。
虫はにおいに引き寄せられて入ってくる
密閉が大事だとよく言われますが、その理由まで説明している記事はあまりありません。
ここから確認します。
農研機構食品研究部門の宮ノ下明大主席研究員は、虫はスキマと、そこから漏れるにおいに引き寄せられて混入すると説明しています。
フタをしっかり閉めていなかったり、袋の口を閉じきっていなかったりすると、そこがスキマになります。
そしてスキマからは中身のにおいが漏れます。
虫はそのにおいをたどって寄ってくるという順番です。
密閉が効くのは、虫の通り道をふさぐからだけではありません。
においという呼び水そのものを断つことに意味があります。
同じ研究者は、開封前に虫が混入していることはかなり低く、開封後に混入するリスクが上がるとも述べています。
未開封の袋を心配するより、開けたあとどう保存したかのほうが実際には効いてきます。
入ってくる虫は1種類ではない
続いて、実際にどんな虫が入ってくるのかを見ておきます。
ここを分けないと、対策がちぐはぐになります。
スパイスや香辛料に混入しやすい虫は主に3種類で、ノシメマダラメイガ、タバコシバンムシ、そしてダニだとされています。
そして重要なのは、この3種で好む環境が違うという点です。
ノシメマダラメイガとタバコシバンムシは乾燥した葉などをエサにするため、乾いたスパイスや香辛料を好みます。
一方でダニは湿気を好みます。
つまり乾燥剤を入れておけば全部防げる、という話にはなりません。
乾燥剤が効くのはダニに対してであって、乾いたものを食べる2種にはスキマをふさぐほうが効きます。
「乾燥させる」と「密閉する」は別々の対策で、両方やって初めて全部に届きます。
なお、混入する虫は成虫でも7ミリ程度で、産み落とされた卵や幼虫はさらに小さく、目視での発見は難しいとされています。
中身と一体化してしまうと、なおさら見つかりません。
湯気の出ている鍋の上で振らない
ここが、この記事でいちばん実行しやすく、効果が分かりやすい部分です。
煮込み中の鍋の上でスパイスを振ると、立ちのぼる湯気の水分が容器の中に入り、それが繁殖の原因になると宮ノ下主席研究員は指摘しています。
ビンや袋の内部が湿気てしまえば、湿気を好むダニにとって都合のいい環境がそのまま容器の中にできあがります。
買ってきたときは乾いていた中身が、使っているうちに湿っていくという流れです。
料理をしながら手早く振り入れる動作は、ごく自然なものです。
それが繁殖の入口になっているとは、なかなか思い当たりません。
対策は難しくありません。
鍋を火から下ろす、あるいは鍋の真上を外して手元で計ってから入れる。
それだけで水蒸気が入る経路は消えます。
買い替えも道具も要らないという点で、費用対効果はいちばん高い対策だといえます。
砂糖にダニはわくのか
ここから食材ごとに見ていきます。
まずは検索でもっとも調べられている砂糖からです。
砂糖については、精製された白砂糖やグラニュー糖ではわきにくく、
黒砂糖や三温糖など色のついた砂糖のほうが注意が必要だとされています。
理由として説明されているのは水分と栄養です。
精製度が高い砂糖ほど水分が少なく、ダニが生きられる条件から外れるという整理になります。
色のついた砂糖は精製度が低いぶん、条件が近づきます。
ただし、この違いを公的機関が明記した資料は見つかりませんでした。
精糖工業会の基礎知識ページにも農林水産省の資料にも、ダニについての記載はありません。
ブログや専門店の解説として広く語られている内容であり、確定した公的見解として扱うべきものではないという点は押さえておいてください。
確実に言えるのは、湿気が入れば条件は変わるということです。
砂糖が固まりやすい置き場所は、そのままダニにとっても条件のいい置き場所になります。
塩にダニはわくのか
砂糖と並んで気になるのが塩です。
「塩でダニは死ぬのか」という調べられ方もしています。
塩はほとんどがミネラルで、ダニが生きるための水分や栄養が乏しいため、わきにくいとされています。
ただしこれも、公的機関が明言しているものではありません。
塩事業センターが公表しているよくある質問には、湿気で固まらないよう温度変化の激しい場所や湿気の多い場所を避けること、開封したまま放置しないこと、濡れた手で触らないことは書かれていますが、虫やダニについての記載はありません。
注意したいのは加工された塩のほうです。
ハーブや昆布、うま味成分などが混ぜられた塩は、もはや塩だけではありません。
そして「塩をまいてダニを殺す」という発想は、順序が逆です。
塩がわきにくいのは殺す力があるからではなく、生きられる条件がそろっていないからだと説明されています。
塩は防除の道具ではなく、条件が悪いので選ばれにくい食材というだけです。
小麦粉・片栗粉はいちばん注意が要る
食材ごとに見ていくと、危ないものははっきりしています。
粉類、とくに小麦粉やお好み焼き粉、片栗粉は、調味料のなかでもっともダニが増えやすい部類です。
粉は表面積が大きく、湿気を抱えこみやすい形をしています。
栄養も水分もあり、ダニにとっては条件がそろっています。
実際、検索で1位に出てくる2013年の質問でも、回答者は「小麦粉や片栗粉は特にダニが発生しやすいので、これらのみ冷蔵庫で」と答えていました。
10年以上前から同じことが調べられていて、いまだに1位が知恵袋だという事実自体が、この問題に決着がついていないことを示しています。
粉類だけは別扱いにする、という線引きが現実的な落としどころです。
カレー粉やスパイスはにおいが強いぶん狙われる
続いて、香りの強いものを見ておきます。
関連する検索でも、カレー粉やスパイスの見分け方が調べられています。
においで虫が寄ってくる以上、香りが強いスパイスや香辛料は、その分だけ引き寄せる力も強いことになります。
先に触れたとおり、スパイスに混入しやすい虫にはノシメマダラメイガとタバコシバンムシが含まれます。
この2種は乾燥した葉をエサとするため、乾いた香辛料はむしろ好みに合います。
実際に被害を書いている個人の記録では、自家製のスパイスボックスでコナダニが発生し、ガラムマサラとクミンに被害が出ています。
見た目に問題がなかったターメリックとチリパウダーも、同じ箱に入っていたため廃棄したと書かれていました。
ここは判断が分かれるところです。
卵や幼虫が目視では見つけられない以上、同じ箱で保管していたものを見た目だけで残す判断には根拠がありません。
米にわく白い虫も同じ話
調味料ではありませんが、台所で並んで心配されるのが米です。
米に発生する小さな虫も、湿気と保存状態という同じ条件で説明できます。
米びつや米袋は、粉類と同じく密閉が甘くなりやすい場所です。
買ってきた袋のまま口を折って置いている家庭は多く、そこにスキマとにおいの両方が残ります。
さいたま市は、チャタテムシなどが発生する場所として保存食品、押入れ、畳、木製家具、壁紙、本、ダンボール箱を挙げています。
米に見つかる小さな虫は、コクゾウムシやノシメマダラメイガなど、ダニ以外であることも珍しくありません。
まず相手を見分けないと、対策が空振りに終わります。
台所で見つけた小さい虫の見分け方
その見分けについて整理します。
検索でも「茶色い」「見分け方」がよく調べられています。
家の中のコナダニは0.3〜0.8ミリで、肉眼ではまず見えません。
目に見えて動いている時点で、相手はダニ以外である可能性が高くなります。
よく取り違えられるのがチャタテムシです。
千葉市保健所によると成虫の体長は1〜1.3ミリ、灰褐色から暗褐色で、屋内でよく見かける種類には羽がありません。
東京都保健医療局も「よくダニと間違えられる」と記載しています。
チャタテムシは刺すことも血を吸うこともないとされています。
大きさと色で当たりをつけられれば、必要以上に怖がらずに済みます。
チャタテムシが気になって眠れないところまで来ている場合は、下記の記事で終わりの目安をまとめています。
-
-
チャタテムシのノイローゼはいつ終わる?何月までかと駆除の限界
チャタテムシが毎日出てきて眠れないという人へ。東京都は「完全に防除するのは困難」と明記しています。刺されるのか、いつ終わるのか、どこまでやれば十分なのかを公的機関の情報から整理しました。
冷蔵庫に入れるべきか、避けるべきか
ここが、上位の記事でもっとも意見が割れている部分です。
農研機構の見解は「密閉できる袋や容器に入れて冷蔵庫へ」で、そのうえで結露に注意するという条件がつきます。
宮ノ下主席研究員は、冷蔵庫での保存は結露が発生しやすく、ビンや袋の内部が湿ってしまうことがあり、そうなるとカビが生える可能性が出てくると述べています。
冷蔵庫が悪いのではなく、出し入れのたびに温度差で水滴がつくことが問題だという整理です。
一方で「冷蔵庫は避けるべき」と書いている記事もあります。
ただし、そう主張しているのは出典を示していないブログでした。
取材を受けた研究者の見解と、根拠を示さない主張とでは、採るべき側は決まっています。
結論としては、冷蔵庫は使ってよく、ただし密閉が先という順番になります。
裸のまま冷蔵庫に入れると結露で条件が悪化するため、避けろという主張が生まれたと考えると筋が通ります。
そして、この整理を実行するには密閉できる容器が要ります。
袋のまま輪ゴムで留めている状態は、スキマとにおいの両方を残したままです。
とくに粉類は袋のまま保存されていることが多いので、容器へ移すだけで条件が変わります。
湿気とカビを寄せつけないという考え方は、台所以外の場所にもそのまま当てはまります。
家全体の環境対策は下記でまとめています。
-
-
蚊取り線香はダニに効く?正しい使い方と注意点を解説
蚊取り線香はダニに効果があるのか、効くとされる理由や室内で使う際の注意点、正しい駆除方法をわかりやすく解説します。
ダニがわいた調味料を食べてしまったら
最後に、気づかずに使ってしまった場合について触れておきます。
ダニが増えた食品を食べてアレルギー症状が出た例は報告されており、この点は自己判断で済ませず、公的機関の情報を確認してください。
加熱すれば安全になるという理解は誤りです。
体調に変化が出た場合は、この記事の情報で判断せず、医療機関に相談してください。
加熱すれば大丈夫と考えて食べ切ろうとしないことが、この項でいちばん大事な点になります。
調味料のダニに関するよくある質問
塩にダニがわくことはありますか?
塩はほとんどがミネラルで、ダニが生きるための水分や栄養が乏しいためわきにくいとされています。ただし公的機関が明記した資料は確認できませんでした。ハーブやうま味成分が混ぜられた加工塩は条件が変わるため注意してください。
砂糖にダニがわくのはなぜですか?
精製度が低い黒砂糖や三温糖のほうが条件が近いとされています。また砂糖が湿気を吸って固まるような環境では、ダニにとっても条件がよくなります。
カレーパウダーはダニがわきますか?
においが強いものは虫を引き寄せやすいとされています。スパイスに混入しやすい虫にはノシメマダラメイガやタバコシバンムシも含まれ、これらは乾燥した香辛料を好みます。
未開封なら安心ですか?
農研機構の研究者は、開封前の混入はかなり低く、開封後にリスクが上がると説明しています。心配すべきは開けたあとの保存方法のほうです。
加熱すればダニは大丈夫になりますか?
なりません。東京都保健医療局は、加熱調理をしてもアレルギー症状の発現を防ぐことはできないと明記しています。
乾燥剤を入れておけば防げますか?
湿気を好むダニには有効ですが、乾燥した状態を好むノシメマダラメイガやタバコシバンムシには密閉のほうが効きます。乾燥と密閉は別の対策として両方を行ってください。
台所にいる茶色い小さな虫はダニですか?
家の中のコナダニは0.3〜0.8ミリで肉眼では見えません。見えている1ミリ前後の灰褐色から暗褐色の虫は、チャタテムシである可能性があります。
虫がわく時期はいつですか?
混入しやすいのは5月以降から夏にかけてとされています。ただし冬でもキッチンが暖かければ活動することがあります。
まとめ
調味料にダニがわくかどうかは、調味料という単位では答えが出ません。
粉類はもっとも条件がよく、色のついた砂糖がそれに続き、精製された砂糖と塩は条件から外れやすい。
食材ごとに見ていくと、警戒すべき場所は台所のなかでかなり絞り込めます。
そのうえで、農研機構の研究者が挙げている原因は保存容器の話にとどまりませんでした。
虫はスキマから漏れるにおいをたどって寄ってきます。
そして湯気の立つ鍋の上でスパイスを振るという何気ない動作が、容器の内部を湿らせて繁殖の条件を作っていました。
どんな容器に移すかは買い物で解決できますが、どう使うかは習慣でしか変えられません。
粉類を密閉して冷蔵庫へ移し、鍋の真上を外して計る。
この2つを今日から変えるだけで、台所の条件はかなりの部分が入れ替わります。